『科学的"アイヌ先住民族"否定論 』的場光昭
『北海道が危ない!』砂澤陣
そもそもアイヌは「民族」なんだろうか。
世界的に知られるアイヌの彫刻家に、砂澤ビッキという人物がいるが、そのご子息でアイヌの立場から発言を続けている、砂澤陣さんの言葉を引用してみよう。
アイヌの文化、言葉、踊り、祭事の違いや、自立的集団形成をなしていない歴史を考えると、アイヌは三体系七分派に分かれる。その意味で、ひとくくりに「民族」とするのではなく、「部族」として解釈する方が整理しやすい。
アイヌ語自体もアイヌと同じで統一されたものではない。東北弁や津軽弁と同じようにアイヌ弁と解釈している。
(『北海道が危ない!』砂澤陣/2016年)
また、隼人が南に追われたわけではないように、アイヌも北に追われたわけではないようだ。
というより、11世紀に東シベリアから「南下」したのがアイヌらしい。
その頃の北海道では「擦文土器」を使う縄文人の末裔と、オホーツク海沿岸から南下した 「オホーツク人」が棲み分け(対立も?)をしていたが、それらを駆逐して追い出したか、それとも取り込んだかで、13世紀(本州では鎌倉時代)に成立したのがアイヌ文化だという話だ。
うーむ、それだとまるでアイヌの方が「侵略者」のように聞こえてしまうが、それが考古学に基づく科学的な結論というのなら、感情的な反論は難しいか。
『科学的"アイヌ先住民族"否定論 』的場光昭
アイヌが「南下」してきた証拠は、DNAからも分かるらしい。
的場光昭さんというお医者さんが、分子人類学者の篠田謙一氏の研究による北海道集団のミトコンドリアDNA頻度の変遷から、興味深い話をしている。
ミトコンドリアDNAのハプログループYは北海道の縄文ー続縄文時代には存在せずオホーツク文化人によって持ち込まれ、アイヌに受け継がれたことが明らかである。
しかもこのハプログループYは沖縄人にはほぼ存在していないのである。
(『科学的"アイヌ先住民族"否定論 』的場光昭/2019年)
また、アイヌと琉球が共通の祖先を持たないことは、父系を表すY染色体の分析からも分かるという。
シベリアや東北アジアで頻度が高いC3系統は、アイヌには見られるが、沖縄では皆無なんだそうだ。
その点から的場さんは、「アイヌの祖先と沖縄の祖先は、男女ともに交流がなかった」と結論づけている。
どうやら、本州の縄文人が南北に追われて、アイヌと琉球に"分断された"という昭和の歴史観は、かなり怪しい「イメージ」でしかないようだ。
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